パンツを落とす失態

　引越して初めて迎えた土曜日。

　S男はとにかくベッドを欲しがっていたので、電車に乗って一番近いニトリに買いに行く。私は、これからしょっちゅうS男の部屋を訪れると思われるので、自分の好みのインテリアでまとめたかった。訪ねたときになるべく気持ちが明るくなるように。幸い、S男は私のセレクトに文句をほぼ言わない。ベッドはすぐに決まり、カーテンはいいのがないので見送り、フードコートでランチして我が家に向かった。S男は初めて私の部屋に来た。

　テレビなど見ながらまったりしていたら、スマホが鳴った。

　何かあったときのために、S男の隣の部屋の住人（ご夫婦が住んでいる。引越してすぐ挨拶済み）に私の電話番号を教えておいたのだが、その彼女からだった。なんでも、S男の玄関前に、パンツ（下着の）が落ちている、とのこと。気持ち悪いから何とかして欲しい、という内容だった。（そのほかにも、下の家に挨拶に行った方がいい、表札と郵便受けに早く名前を出した方がいい、など色々言われる）

　洗濯機がまだなかったので、朝、洗濯物をうちに持ってくるよう伝えていたのだが、鍵を掛けたりしているうちに、パンツを落とした。そして気づかずに出かけてしまった。彼の病気は、一つのことに注意が向くと、そのほかのことがおろそかになる症状が著しい。

「すぐ行きます」と伝えて、ことの次第をS男に話し、すぐ彼の部屋に向かった。

　パンツを回収し、念のためにお隣さんに報告に行く。下の階には既に挨拶してきていた。お隣さんも色々親切に教えてくれるが、あまり神経質だとしょっちゅう何か言われるのではないかと心配になる。

　S男はやらかしてしまったことに落ち込んでいるようだった。

　で、なぜか「シャワー浴びるね！」と言ってシャワーを浴び出したので、私は部屋の片づけをし始めたのだが、ほどなく

「姉貴！お湯が出ない！」とパニック状態になって廊下に飛び出して来た。素っ裸で。姉に見られても気にしないことにびっくりしてしまった。

「キッチンでお湯出した？」などと聞いてきたが、今の時代、別の箇所でお湯を使ったからといって、止まってしまうことなどあるのだろうか？調べたら、何のことはない、シャワーヘッドに一時止水できるボタンが付いているタイプで、知らないうちに押してしまったらしかった。

　S男は笑っていたけど、とにかくもっと落ち着いてくれ、と心から思うのであった。